自分がこれからスイスという未知の国で1年間生活するという実感は、日本を離れる飛行機に乗ってからもなかなか沸いてこなかった。コロナウイルスの拡大によって出発を1年延期せざるを得ず、留学が遠く先に感じられた準備期間をやっと終えた頃には、地元から1万キロ離れた国に行くことが信じられずにいたのだと思う。
そんな私をはじめに出迎えたのは、いろんな言語で書かれた看板やホストファミリーの家に向かう電車の窓の外に広がるスイスの景色だった。その日の夜、ホストファミリーにおやすみといって自分の新しいベッドに寝転んだとき、自分の留学がついに始まったんだ、とゆっくり感じ始めた。

到着当日にホストファミリーと

その後始まったスイスでの生活は最初からチャレンジの連続だった。スイスではいわゆる標準のドイツ語である高地ドイツ語ではなく、スイス特有のドイツ語が話されている。そんななか高地ドイツ語も基礎の基礎しか知らなかった私は、ホストファミリーとの意思疎通や学校での生活に最初とても苦労した。これまで自分の考えを言い表せない、相手の話している内容が分からないという経験がなかった私にとって、このような状況は想像の何倍も大変で毎日たくさんのエネルギーを費やした。また、自分がやっていることが相手にとって迷惑になっていないかが心配で、日ごろの何気ないことを行うときにも少し躊躇してしまうことが続いた。

AFS の語学学校によるチューリッヒ遠足

そんな私にとって大きな助けとなってくれているのが、近所のパーティに参加した際にホストファミリーの友人が自分にしてくれた話だ。グリューワインを片手に彼女は私の留学の話を熱心に聴いてくれ、そのあと一つのアドバイスをくれた。「スイスでは自分にとって正しいと思うことをするのが尊重されているの。日本の文化では周りの人に思いやることが重視されていると思うけど、たまには自分の心にとって良いと思うことを素直にやることも大事よ。」
自分が周りの人に迷惑をかけてしまっているんじゃないかと不安になっていた私にとって、この言葉は大きな支えになってくれたと同時に、この留学では自分がやりたいことを精一杯にやることが欠かせないと私にあらためて気づかせてくれた。留学はあと 4 か月と残り少なくなってきたが、自分にとって一番の留学になるようにやってみたいことや気になることは躊躇せず積極的に取り組んでいこうと思う。

ホストシスター・ブラザーと散歩の際に

最後にコロナ禍という大変な状況の中で留学の機会を与えてくださった家族やホストファミリー、森村豊明会や AFS の方々には心から感謝を申し上げたい。初めからずっと支えてくれた人々の優しさを無駄にしないためにも、帰国までまだまだたくさんの新しいことに日々挑戦していこうと思う。

森村豊明会奨学生
2021年・AFS69期 スイス派遣/ I.Kさん

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