第1部 高校生でハンガリーへの留学を決意した理由

私が高校生の時に留学をしたのは以下の3つの理由による。
1つ目は、幼い頃よりヨーロッパ(特に南と西ヨーロッパ)の歴史、芸術、建築、文学、及び言語に関心を持っていたことである。実際に現地で暮らし、学ぶ機会を探していた。
2つ目は、幸運にもあるヨーロッパの国を訪れる機会を得たことだ。初めて実際に目の当たりにした「生きた」建築物、交流した人々、用いられる言語等に圧倒され、感動した。それ故、現地で実際に暮らして勉学に励むことを目標として、具体的に計画を立てた。その過程でAFS日本協会へ募集した。
最後は、最終追加募集に応募して合格し留学先の国を選択したため、候補の国は7つだった。当初希望していた国々は含まれていなかったが、ヨーロッパの国でハンガリーが候補リストに挙っていた。以前書籍で写真をみた建築物が印象的だったため、選択した。

第2部 留学体験記 「切符」

「少し日本に旅をしてくるから。」
「じゃあ、普段の9時の列車で帰っておいで。」
これが、1年間の留学プログラムで滞在したハンガリーでのホストファミリーや友人達との最後の会話だった。

昨年の7月上旬まで、僕はAFS64期派遣生として、東欧ハンガリーへ留学をした。ハンガリーはヨーロッパとアジアの間に位置し、古今東西から芸術、文化、建築技術等が集積した個性的な国だ。また、夕暮れ時に黄金色に輝く小麦畑が果てしなく広がる丘陵地や平野の風景など、自然豊かな国でもある。

そんな穏やかな国での滞在中、長く脳裏を占め続けた問題が移民、この場合難民問題である。中東での内戦や紛争が激化する中で、バルカンルートと呼ばれる難民の避難ルートに位置するハンガリーは早くからこの問題に直面した。難民への支援物資に関する軋轢、自国民の雇用機会の減少、ひいては難民への国境封鎖後の武力衝突など、これらの問題をめぐり多くの議論が生じている。
そのとき、必ず街頭で耳にした台詞が、「ハンガリーはハンガリーの人民の為だけの国」である。ここで、1つの疑問が生じた。紛争により祖国を逃れてきた難民の人々と日本人留学生の僕との違いは何か。異国の地で、「自分」という立場について考えをめぐらせた。
その折、1枚の身分証明カードに目を落とした。滞在中の外国人に対して所持が義務づけられていた、プラスチックの小さなカードだ。カードの身分欄には、ただ1単語だけが記されていた。
“Immigrant”
「移民」。難民の人々と留学生の僕は入国した理由は異なる。しかし、置かれた立場は同等なのである。
一体、彼らとの違いは何なのだろうか。

そんな折、ある忘れることの出来ない印象的な出来事に遭遇した。駅で列車の客室に座り出発を待っていたときである。2人の幼い子供を連れた母親が寒風の吹き荒ぶ冬空の下、コートも身に付けずにプラットフォームに立ち尽くしていた。
その人達は、「難民」の人達だった。
街角では時折、金銭を求められたが、実のところ経済面や安全面から打つ手は限られており、その度にお金を渡すことは出来ないと相手の手を握って立ち去っていた。何か出来ないか。そう考えながら暖かな車窓から外の彼らをただ、眺めた。
その時だった。1人の男性が到着したばかりの別の列車から彼らの元へ歩み始めた。同時にそれまで不安げに身を寄せ合っていた子供達の顔が笑顔に輝き、母親とともに安堵と喜びに溢れた表情で駆け寄って行った。満面の微笑みで彼らを暖かく抱擁した父親の表情に疲れは微塵も見られなかった。そのとき、難民の彼らと留学生の自分の間には、何の違いも無いと確信した。
留学生活を通して僕は、多くの人達から沢山の愛情を得た。ホストファミリーの父母からの大きな、暖かい抱擁。毎朝の朝食と毎晩の団欒の時間での会話。初めての経験に幾度と無く感謝した。友人達と歩いた小道に伸びる、影法師に被る僕達の笑い声。木漏れ日の中での、暖かな微笑み。あの人達がいたから、どこまでも広がる景色は美しかった。共に過ごした時間は、楽しかった。
あの駅での彼らの暖かな愛情に溢れた瞬間と僕の日々の瞬間は同じだった。愛する、愛されることに何の区別も無かった。僕自身、難民や留学生といった立場で区別していたのかもしれない。

ただ、冬のプラットフォームでの彼らのその後を、僕は何も知らない。より恵まれた雇用を求めて隣国へ渡ったかもしれない。或いは支援を受けることが出来ずにいるかもしれない。現実は常に複雑な面を持つ。

一体、何が出来るのか。将来は、建築の分野で人々が分け隔てなく安心することの出来る空間を創る仕事に携わることを考えている。空爆等で破壊された住居や遺跡の再建、修復に携わる活動に従事することを考え、建築学や経済学等を専攻する計画を立てている。
また、留学への応援、援助をしてくれた人々に、大変感謝している。
「9時の列車」。出発はもう直ぐだ。あの約束から暫くの時が過ぎた。約束の列車への切符と共に、今日も世界の反対側で生かされている。

AFS64期ハンガリー派遣生 井戸 和音

続編:留学後の進路 海外の大学への進学 を読む
(第3部 Ⅰ)大学への志望理由 Ⅱ)計画遂行においての準備と行動)

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