【断食を通して】
マレーシアには主に3つの民族がいる、という話は有名です。いま私は国の中でも多数派のマレー系の家族と暮らしています。全員がムスリム、つまりイスラム教徒であるマレー系では6月の終わりから29日間の断食がありました。
初め、思ったよりも1日1日を難なく過ごし、「これはあまり辛くないな」と感じていました。しかし、日が経つにつれて暑さが気になってゆき、断食月の半ばには、もう終わらせてしまおうと考えたほど辛くなりました。
中華系が多い私のホストスクールでは、むしろ断食をしている人の方が少ないことを考えると、その迷いは大きくなるのみ。その状況で思い出されるのは、当たり前のように1日3食の生活をしていた日本での日々。ああ、恵まれていたんだな、と心から感じました。
そして、「この経験は辛いけど、ここでやめてしまうと、何か大きなものを学べないままの帰国になってしまう」と思い、私自身が断食を乗り越える大きなきっかけにもなりました。もちろん、それから先の断食を辛く感じなくなったという訳ではありませんが、思い返してみると自分自身の大きな励みともなった判断でした。
そうして迎えた断食の最終日。この日の日没が楽しみで仕方なく、前の晩から全く寝られませんでした。日の出の前の、朝4時台の朝食も、写真に収めたくなる程、気分が高揚していました。この日が過ぎるのはいつも以上に早く感じ、気付くと夕食も過ぎて夜中。断食を耐え抜いた嬉しさから、ハリラヤと呼ばれる断食明けを祝う日の早朝まで起きていました。
そしてファミリーの親戚達と迎えたハリラヤ。みんな笑顔で語り合うのを見ていると、何か新鮮な気分がして、ここまで貫いてきたことを今後の糧に出来る気がしました。この断食を筆頭に、留学経験の中には辛いことはまだまだありますが、断食の1ヶ月間の体験を自分の強みにして、ここでしかできないことをあと半年頑張ろうと思います。
【多民族国家】
マレーシアには10を超す計り知れない数の民族が住んでいます。この多民族国家で多数派として存在するのは、マレー、現地語でムラユと呼ばれるイスラム系民族です。それもあってか、というのも違和感がありますが、国教は信教の自由を認めながらもイスラム教と定められ、国王は国のムスリムの代表という形でイスラム教徒が就任、歴代首相もイスラム教徒が続き、行政機関の議員もイスラム教徒が多い現状があります。
ここまでの形が整うと、やはり政策やその他様々な所に、「贔屓」と捉えられ兼ねない点が出ている事も感じられるのです。
例を挙げると、国内多くの学校はイスラムの習慣に特に配慮した時間割になっていたり、歴史の授業で扱う多くの内容がどこか宗教色を持っていたり。また日常では、イスラムのモスクのみが、公金によって建てられていたり、国立大学の学内に存在していたり。本当に様々な事があるのです。
過去に行われた人種政策もその影をのこし、日本にいた頃は宗教を意識した事のない私にとって、初めて飛び込む異国にしては環境がハードすぎるのではないかと思う程です。
それでも、その国に住む人にとっては、個人差はあるものの時たま苦痛、その一方ではこの状況が普通、といった様子です。これには、多文化が共生する社会という事を聞かされてこの地に渡った人間として、大きな衝撃を覚えました。
「本当にこれが多文化の【共生】する社会なのか」、「少数派民族に対する理解が欠けているのではないのだろうか」
……正直、少数派であるインド系と多数派であるマレー系のファミリーと過ごす経験をした私としてみると、このことは今も尚、解決されない疑問となっています。同時に、異文化や異宗教を持つ集団どうしが共生する難しさも、日々感じています。この国では何かと制限も多く掛かりますが、その分ほかとは違う問題や文化に触れ、「共生する社会」についてしっかり考えられる、素晴らしいところです。
2014年8月 マレーシアより
AFS61期生/広島市高校生交換留学生奨学生 井口雄司
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