僕が中国に滞在していた一年の間に、本当に色々な事が起こった。たとえば、反日デモや鳥インフルエンザ、そして四川での地震などだ。今思えば、それらのどれもが早期帰国の要因になってもおかしくなかったレベルの事件だった。
また、僕自身の周りで起こった事件では、エレベーターの中に閉じ込められたり、携帯をなくして知らない街で迷子になりかけたりもした。これらのことがあって、この一年を無事に過ごせたことは本当に幸運なことだったと思う。
だから今は、何はともあれその幸運に対して、また僕が困ったときに助けてくれた周囲の方々に対して感謝の気持ちで一杯であることを述べたい。
僕が派遣された地域は中国でも最も反日色の強い地域だった。これが現地で初めて知ったことだが、僕がステイしていた“湖南”という地域は日本人の間ではあまり有名ではないが、かの毛沢東主席の出身地として中国では有名で、ナショナリズムの強い地域だったらしい。
そういうわけで、当然反日デモなども激しく、おそらく日本でもニュースで報道されていたのではないだろうか。特に日本系デパートの中に大挙して中国人が押し入る様子は凄まじいものがあった。
結局そのデモの様子を見たあとはしばらく中国人の日本人へのむき出しの敵意を感じて、学校に行くのが臆劫になり家にこもってしまった。当時は留学したてで不安だったのも手伝って、学校の友人も信用できていなかったのだと思う。
だが、今思えば当時の僕は非常に愚かだったと思える。なぜなら、ほとんどの中国人はいわゆる“反日”ではないからだ。どうして僕がこう考えるのかというと、僕の留学先の友達やホストファミリー、またその他の中国の人々が日本のことが嫌いどころか、むしろ興味をもって接してくれたからだ。もちろんあまり日本人に良い印象を持たないという人もいたが、そういう人は少数だったと思う。
だから僕はクラスメートやファミリーに励まされて、デモの前まであった中国人に対する色眼鏡をはずして心を開くことができたし、また彼らもよく話しかけてくれるようになった。この出来事は今でも僕の体験したなかで最高のものだと思う。
ところで、僕が中国で体験したこの出来事は日本の状況とよく似ているように感じないだろうか?つまり、日本でも中国と同じように反中・反韓のヘイトスピーチが見られるようになったが、中国人や韓国人というだけで人を差別する日本人は少ないだろうということだ。
この少ないだろう、という部分は完全に僕の推測だが、僕の周りに韓国大好きという人が多かったり韓国人の友達がいたりすることを判断材料に書いている。
よってこれは中国と日本という二国間での“共通点”だ。同じアジアの国とはいえ、相違点が多く歴史的にも対立する日中だが実は似通ったところが多いのだ。
留学すると、最初はやはり誰もが自分の国との“違い”に戸惑い、違うことばかりに注目してしまう。僕もそうだった。しかし、慣れてくると逆に同じところ、似ているところに注目できるようになる。これは大きな成長だと思う。
結局この自分と同じものを見つける意識が、知らない相手を受け入れることにつながるからだ。また、自分と相手の共通点を多く見つけることは、そのまま仲間意識の芽生えにもつながる。そしてより多くの人が互いにこれをすることは、すなわち世界中で仲間意識を共有するということだ。これはAFSの国際協力の理念に直結するものである。
なので、AFSやYFUで新たに留学する人には、留学前になにか必要な心構えというものはないと思う。留学して初めて実感することもあるのだから。
2013年8月 中国派遣
AFS59期生/(公財)かめのり財団奨学生 砂川晃広
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