「今年遊びに行くから泊めて」と、フィンランドのMia(ミア)から連絡があったのは年の初めでした。
休暇の予定をやりくりして日程を決め、何をしようかと話し合い、飛行機を予約し・・・、着々と準備を進めながら再会の日を心待ちにし、ついに9月21日、遠路はるばるヘルシンキからミアがやって来ました!

ミアとわたしは、1989年~90年にペルーのトルヒーヨという町でAFS留学生として共に過ごしました。
インターネットどころかFAXすら一般家庭には普及していなかった時代、留学最後の日が一生の別れのように思えたものですが、その後SNSでお互いを探し出し、2011年には同じ年にペルーに留学していた7人の留学仲間とオーストラリアのメルボルンで約20年ぶりの再会を果たしました。
翌2012年、ミアは東京や京都の観光を兼ねて来日しわたしの家にも1週間ほど滞在しており、今回が二度目の滞在です。

Photo by Mia Sinisalo

今回わたしたちは、特に観光やイベントはせず、おしゃべりして日常生活をのんびり共有しようと決めました。
毎日一緒に犬の散歩をして、近所の海岸を散歩したり、買い物に行ったり。地元の直売所では「きれいな色!」と新生姜に驚き、ビニール袋に入って売っている金魚やメダカに見入っていました。

地元で開かれるお祭りを見に行ったときには、小さな子どもからお年寄りまで祭り装束に身を包み海辺を埋め尽くす様子を見て、伝統を身近に感じながら成長することの豊かさについて話し合いました。
近所を散歩していると、彼女は「ねえ、あの木素敵だね!」「自転車面白い!」などと言っては立ち止まり、沢山の写真を撮ります。わたしが見ても、特別なことはなんにも感じないごく普通の木や自転車です。
撮った写真を後で見せてもらうと、ミアの目を通した風景が飛び込んできてなんとなくわたしも外国旅行をしているような気分になりました。
短い滞在でも、よく知った相手でも、違う文化の人と過ごすというのはいつも面白い発見があるものだなと思います。

Photo by Mia Sinisalo

また、これは本当に驚くべき偶然なのですが、わたしは去年から、ミアは今年から、ミツバチの飼育を始めていました。
蜂の世話を一緒にしよう!というのは、日本に来ることが決まった時から話し合い、楽しみにしてきた事です。
夏の終わりから秋にかけて、日本ではミツバチを狙ってスズメバチが大襲来します。小型のスズメバチは巣から出てくるミツバチを待ち構えては捕まえて、肉団子にして持ち帰ってしまいます。また、オオスズメバチは3匹以上になると戦闘モードに入り、巣門から出てくるミツバチを一つ残らず噛み殺した後に巣の中に侵入し、中の蛹や幼虫などを根こそぎ持っていきます。これに対抗するため、ミツバチの巣箱にネットをかけたりトラップを仕掛けたり、ラケットや網で退治したりして、スズメバチから守る必要があります。

Photo by Mia Sinisalo

一方、フィンランドではスズメバチはいることはいますがミツバチと変わらないサイズで、蜂蜜を舐めに巣に入ってくるだけなのだそうです。
これほどの数のスズメバチの襲来や、人間の親指ほどの大きさのあるオオスズメバチを見たのは初めてで、「これ鳥のサイズだよ!」と本当に驚いていました。
蜂につくダニの対処法、巣箱やツールの違いなどについても色々と話して、とても有意義で楽しい時間でした。
もちろん、蜂蜜も交換しました!フィンランドの蜂蜜は固まってガチガチになりやすいので、かき混ぜてクリーム状にしたものが一般的だそうです。
わたしの液体状の蜂蜜を見て「フィンランドではこれは搾りたての一番フレッシュなときにしか味わえない!」と言っていました。

Photo by Mia Sinisalo

そして、今回わたしにとっても新しい体験となったのが、食事です。
彼女はグルテンアレルギーがあり、ベジタリアンでもあります。前回の滞在時には「旅行中は食べ物に妥協する」と決めていたらしく、何も制限せずに食べていましたが、今回はミアの食生活に完全に寄り添うことにしました。
グルテンフリーのスパゲティやパン、こんにゃくを使った麺などを用意して待っていましたが、醤油にもグルテンが含まれているというのはミアに聞くまで思いつきませんでした。
そして、あまりに身近で普段は意識しませんが、かつおだしも動物性食品。毎日の食事の支度は面白いチャレンジとなりました。
ミアも、梅干し、湯葉、餅(ずんだ餅、きなこ餅、ゴーフレットの型で焼いたカリカリ餅)、かんぴょう巻、茄子のレンジ蒸しなど、初めての食べ物に沢山挑戦しました。お気に入りは、味噌をつけた新生姜と胡瓜の奈良漬けだったようです。

庭で火を熾して野菜を焼いた「ベジタリアンBBQ」は、今回の滞在のハイライトともいえる良い思い出です。
野菜しかないBBQなんて、私にとってもちろん初めてのこと。少しでも変化をつけようと小さな土鍋二つに、片方はオリーブオイルに塩、ニンニクと色々なハーブ、もう片方は白ワインとチーズを溶かしてチーズフォンデュ(ミアは卵と乳製品はOKです)にし、焼いた野菜をつけて食べました。
長ネギは、そのまま直火に突っ込んで、皮がプクプクしてきたら取り出し、焦げた外側を剥いて豪快に口へ。擬音語が気に入ったらしく、ミアは焼けるまでずっと「プクプク、プクプク」と言って待っていました。
ミアにとっては、BBQでフォンデュをするのも長ネギの直火焼きも初めてだったそうで、アウトドアが趣味の彼女は「次のキャンプで絶対にこれやってみる!」と言っていました。
火を見ながらのんびり座って、お酒も進んだせいか、ちょっと感傷的な話もしたりして・・・。温かく、心地よい夕べでした。

Photo by Mia Sinisalo

AFS留学は、その国の家庭に入り、学校に通い、現地の人になりきってその場所の生活に溶け込むという点で、他の海外滞在とはまったく異なる異文化体験です。
このような経験を通してできた友達は、本当にかけがえのない財産だと思います。
わたし達ふたりも、多感な10代の留学生時代に大騒ぎしながら一緒に過ごせたことに感謝しつつ、大人になって落ち着いた状態でこうしてゆったりと語り合えるようになった豊かさも実感できる再会となりました。

わが家に6日滞在した後、トレッキングと温泉、そして猫カフェ(!)を楽しんで帰国したミア。
帰国前夜には、都内のベジタリアンレストランで夕食を共にし、今度は5年以内にわたしがヘルシンキに遊びに行くと約束して別れました。
留学時代と違って、今はお互いがその日何を食べたかまでSNSで分かってしまうような時代です。お別れは寂しいものではなく、次に会うときを楽しみにする明るいものとなりました。
フィンランド語で話しかけては撫でまわし、毎日一緒に散歩してくれたミアがいなくなって、犬たちは少し寂しそうに見えますけどね。

Texts: YP36期(1989-90年)ペルー帰国生 廣田淳子
Photos: Mia Sinisalo


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