先週、台風のようにエジプト出身のアハマド君が母国に帰ってしまった。

アハマドくんのいない我が家は、平穏で、ギャーギャー大騒ぎにはならず、勉強に集中しようと思えばできるはずの環境が整ったようだ。だけど、アハマド君と娘たちがどうでもいいことで吐きそうになるほどゲラゲラ笑っていた何でもない時間がもう二度と還ってこないのだと静かな時にこそ感じてしまうし、私はそういう光景を見ること、聞くことが幸せな時間だったのに、もうそれは叶わないことがやっとわかった。
アハマド君が夕食時に、口火を切ってくれた「今日、光、学校どうだった?」に始まるお互いへの気遣いの循環だってすごく減ったような気もする。夕ご飯が終わった後、「カードやろう?葉月やる?やる?光は?(アハマド君)」「ちょっと待ってよー、これ終わってからね!(娘)」という、いつもあった声が聞こえてこない。
「もう!!アハマド君が後ろで勉強していると、ずっーっと質問とか、話しかけてくるから、全然集中できない!(娘)」「そんなことないでしょ!?(アハマド君)」のやり取りも聞こえてこなくなってしまった。
そんなアハマド君は、最初こそ、私(ホストマザー)にとっては、「将来はエジプトの貴公子」だと本気でも思うほど、気品にあふれ、相手を不愉快にさせることが絶対にない、笑顔の素敵な好青年だった。しかし、だんだんとうちに慣れ、日本に慣れ、日本語が本当に上手になり、本性を現すにつれ、私は、「うちの問題児」(笑)と人に紹介するようになっていった。

おっちょこちょいで、よくものを落とし、忘れものをして、みんなに心配や苦労をかける。
学校や周りで好青年を演じているようだが、家では明るく、大笑いしながらも、けっこうな毒舌家。度々、そんな考え方ではうまくいかないから、こう考えてみて!とお説教の必要な愛すべき青年だった。今日が帰国だという日も、うちに来て以来、欲しくてしょうがなかった購入したばかりの携帯電話をしっかり自分の部屋に置き忘れていった。
それでも、アハマドくんとの別れは、私たちは勿論、アハマド君に関わった人みんなを本当に本当に寂しくさせた。すごく愛した人と別れる時はこんな感じだ、というのがよくわかるような別れだった。みんな本当に寂しく、すごくすごくアハマド君のことを愛していたのだ。AFS留学って、深く愛される体験なのだ、と改めて実感した。
同時に、私たちも、なんだかんだとお世話しているようで、苦労をかけられているようでいて、こんなに寂しいって、同時に、アハマドくんや彼と関係してくれている人達に、私たちこそが大切に、愛された経験でもあったのだ、と。アハマド君には、私たちのなんでもない日常を、大笑いで、幸せで、スペシャルな日常にしてもらったと今改めて感謝しています。

私たちの家族も、アハマド君だって、あの時、一緒に過ごした時間があるから、そこをハートのよりどころにして、この先も、幸せに生きていける、はず(笑)。ホストファミリーをするって、そんな経験だと思います。AFSに関わる皆さま、留学生のみんな、幸せをありがとうございます。
東京練馬支部 大森さんファミリー
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