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「日本の子ども、若者の貧困と私たちにできること」 認定NPO法人キッズドア理事長渡辺由美子さんのお話を伺って


ニュース記事や地下鉄のポスターなどでなんとなく知ったつもりになっていた「日本の子供の貧困」ですが、今回の渡辺さんの明るくポジティブな口調でわかりやすく語られたお話は、驚くことばかりでした。

先進国の中で母子家庭の就業率が第1位なのに、貧困率も第1位という統計にまず驚愕。怠けているから貧しいのではなく、一生懸命働いているのに貧しい。原因は社会構造にあることを明確に教えてくれます。

具体的なエピソード、例えば、卒業総代を務めるような優秀な生徒が学校の先生になりたいと思っていたけれど、お金がないから大学進学を諦めて就職した、というお話には切なさと、優秀な人材を活用できない勿体無さを感じました。貸与型でなく給付型の奨学金がもっと必要だというお話にはうなずくばかり。

子どもの貧困は福祉でなく、社会的投資だというお話にもさらに頷きました。教育は長期的な国の成長に必要なのは自明ですし、少子化問題がこれだけ騒がれているのに、なんという現状だろう、と愕然ともしました。

息子さんの同級生の男の子の様子から、貧困家庭の子どもの実態を知り、無料で学習支援を始めたとのことですが、その実行力にも驚きます。

今はNPO法人として無料の学習塾を行い、学習支援のみならず、ご飯も提供しており、コロナ禍の頃から家庭に食料を提供したりもしているとのこと。ご飯を出してくれるから、無料の学習塾に行こう、と思う親子さんたちもいるそうです。発展途上国で、学校でご飯を出して、子供に学校に来てもらうようにしている、という話を昔聞いたことがありますが、そういう状況が先進国であるはずの日本にも起こっているということがショックでした。

ご主人のお仕事で、労働党のブレア首相時代、教育を重視していたイギリスに1年滞在されたそうです。息子さんが現地の公立小学校に通学され、個々人にお金がかからないこと、みんなで子供を育てようという態度を経験したことが、今の活動のベースになっていることもお話してくださいました。

私はAFSでイギリスの中流階級の住むエリアの公立高校に通いましたが、1983年から84年当時は不景気で、保守党のサッチャー首相が大鉈を振るっていた時代。どんどん教育福祉がカットされ、親が失業して学校を辞める人も結構いるような状況でしたし、大学進学は日本よりかなり少なかった。同じ国でも時代によって–経済状態やどの政党が政権を握っていなど—当たり前ですが、教育現場も変わっていくんだな、と思いながら聞いておりました。

子供の貧困は、昔の日本にもありました。戦後、私の両親世代の話を聞くと、多くの人が貧しく、また私が生まれた昭和40年代にも、外から見て分かりやすく貧しい人たちがいた。でも、世の中はこれからよくなる、よくなろうという夢や希望があった時代でした。貧しい家庭の優秀な子供には余裕のある親戚や篤志家がバックアップして進学した、というような話も聞きました。みんなで子供を育てる、という気持ちがまだあったのだと思います。

今の貧困は、外から見えない。普通の格好をして、スマホを持っている。でも家に帰ると、ご飯もろくに食べられない、電気代も払えないから、猛暑でもエアコンもあまりつけない。給食がないから、ご飯を食べさせるのが大変で、夏休みなんかいらないと思う・・・。

渡辺さんがおっしゃっていたように、経済が低迷してきた頃から「自己責任」ということが強調され始めました。あなた自身の責任だから、自分でどうにかしなさい、と。貧困の問題は経済的なことだけではなく、誰にも頼れない、という精神的な疎外感も大きいのだろうと思います。

「平等」と「公平」の違いについてのお話も、とても感銘を受けました。みんなが同じものを受け取るのではなく、必要なものを必要な人に届けること。でも現実は、必要のない人にたくさん届いて、必要な人には全く届いておらず、経済格差、体験格差などは広がる一方・・・。

2009年から厚生労働省が相対的貧困家庭の統計を取り始めたそうです。リーマンショックの翌年、外からははっきり見えない貧困の実態に気づき始め、実態を調査し始めた。政府としても対策を取り始めているそうですが、そういう支援制度を知らない人が多いし、我慢することしか知らない人が多い。

今回、「受援力」という言葉を初めて知りました。援助を受け入れる力、助けを求める力という意味だそうです。あとでネットで調べたら、実は政府が言い出したことなんですね。「自己責任」から「受援力」へのシフトは、それだけ状況が悪化していることの表れなのでしょう。

ただ、相手を、人を信頼できないと、助けを求めたり、受け入れたりすることはできない、と渡辺さんたちがおっしゃっていたことにも驚きました。

そこで思い出したのが、基本的信頼感、という心理学者エリクソンが提唱した概念です。相手や自分に対する信頼感、ひいてはこの世に存在していいと思える根本的な信頼感。それがないと助けも求められない・・・。

「勉強なんて、大変。だからやらない」と言っていた子供を、学習支援のボランティアさんがなだめすかして、勉強を手伝い、0点だったテストが、30点になった時、「すごい!できるね!」と一緒に喜んでくれる。するとやる気になってもうちょっと勉強して、今度は50点取れるようになる。

生活が苦しくて、もう自分なんか存在しない方が楽なのでは、とさえ思っていた時に、食料を提供してもらって、本当に感謝している、という感謝のハガキも見せていただきました。

渡辺さんたちの活動は学習支援したり、ご飯を出したり、食材を提供することを通じて「この世に存在していい。あなたは大切な存在」というものすごく大きなメッセージを伝えていらっしゃるのだと深く心を打たれました。


文:冨田香里(リターニー30期)


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