今回は2000年の立命館アジア太平洋大学(以下APU)の開学に貢献し、佐賀女子短期大学学長を務めながら、現在はAFSの理事としても活動されている今村正治さんを紹介します。
今回はお忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます。まずはAPU開設についてお伺いしたいです。
APUは2000年に大分県別府市に開設された大学です。
APUは「三つの50」を掲げて開学しました。教員の50%以上が外国人、学生の50%以上が留学生、国は50か国以上から受け入れるというものです。
APUでは疑似留学が可能になります。
多文化環境の中に身を置き様々な価値観や文化に触れることで、これからの世の中を生き抜く力が身につくのです。日本でもそんな経験ができる場所を目指してAPUを開設しました。
現在の日本は若者の数がどんどん減少し、欧米や他のアジアの国々に遅れを取り始めています。今後さらにこの流れは加速していくでしょう。
これからの日本の社会を変えていくにはどんな力が必要になるのでしょうか??
自分で「問い」を立てる力が必要です。これまでの社会は、大学受験に代表されるように答えのある問題で正解を導き出せることが正しいとされてきました。
しかしこれからの社会では正解のある問題は基本的には存在しません。自分で「問い」を立てて周りの人と議論し「問い」を深めていく力が大切になってくるのです。
例えば東日本大震災の原発事故に関してです。
当時の官僚がもし津波が15m超えたらどうなるかという「問い」を立てていれば、あれほど甚大な被害はもたらされなかったと思います。
常に「問い」を立て続ける力が足りなかったことを如実に表しています。
ただ今の教育制度は十分にそれを推進する仕組みにはなっていません。
これからの社会を変え、欧米や他のアジアの国々に劣らない成長を遂げるには間違いなく”教育”が肝になってくるでしょう。
今村さんは教育世界の第一人者として日本の今の教育についてどのようにお考えでしょうか?
教室で行われる授業のありようを根本的に変える必要があると思います。
教師は生徒たちの共同の対話を誘発する”facilitater”・”coacher”・”tutor”などと呼ばれる役割にもっと変わっていく必要があると思います。これまでの教師はいわゆる”teacher”としての役割が主であり、生徒たちに答えを教える・説明する役割であることが多かったのです。
しかしこういった教育の形を根本的に変える必要があるのです。そうしないと自分で「問い」を立ててそれを周りと議論して深めていくような力を身につけることは難しいです。
国立大学と私立大学の学費など国私間格差が今のままでいいのか、という問題もあります。
例えば東京大学や京都大学は経済階層で見た時に一番高い家庭からの学生が多く在籍しています。なのに学費は安いのです。
しかし経済階層で相対的に低い家庭の学生が私立大学で高い学費を払わなければならないというのが、今の日本の大学の現状の問題としてあると思います。その矛盾の集中点が、地方の私立大学であり、短期大学であり、女子大学です。経済格差、大学の少なさ、私学の高学費が多くの若者が高等教育で学ぶ選択肢を極端に狭め、学ぶ機会を奪っているからです。
現状大学入試で求められているのは「答えのある問いから正解を導く力」が主であり、それがこれまでの学歴主義の日本の在り方を支えてきました。しかしこれからの社会は自分で「問い」を立てて仲間と議論し「問い」を深める力が求められてきます。
そういった点で大学入試の在り方はどんどん変わっていく必要があると思います。現在、入試の総合型選抜化が進み、「年内入試」が多数になりつつあるのも、もう変化が始まっていることを表しています。
このように大学の在り方が変わっていけば当然中学・高校も変わっていきます。そうすれば自然と日本の教育も徐々に変わっていくでしょう。大学や大学入試の在り方の責任は非常に大きいです。
最後にこれを読んでいる中学・高校生に対して何かメッセージがあればお願いします。
今の世の中は5年先の未来でさえも全く予測できないような時代になっています。
予測できない未来の中で何が自分の人生を支えるか。
それは「常に学び続ける習慣」と「友人・出会い」。この二つだと思います。
この二つの最大公約数に効果があるのが留学なのです。
異文化の環境に行きそこで全く価値観の違う人間に出会うことで、生き方は決して一つではなく、様々な生き方があることを学べるのです。それは自分の生き方の選択肢を増やすことに繋がるのです。
APUにおける疑似留学やAFSを通して留学すること、たとえ旅行であっても、確実に今後の世の中を生き抜く上で意義のあるものになると思います。
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