「AFS友の会」は、アメリカ・ニューヨーク州に留学した28期の延江由美子さんをお招きしての連続講演会を、1月28日と2月25日にオンラインで開催いたしました。
延江さんはAFS留学のあと北海道大学で獣医の勉強を終えられましたが、大学時代に訪れたインド・コルカタ(元カルカッタ)でのマザーテレサとその活動との出会いに心を打たれて、看護師になろうと決意。数年後、ワシントンDCにあるアメリカ・カトリック大学に留学して看護師の免許を取得し、ローマ・カトリック教会女子修道会のメディカル・ミッション・シスターズ(MMS)に入会しました。そして、派遣先としてインドを希望、これまでの活動を続けて来られました。


「知られざるインド北東部の旅」 第1回

人口13億人余り、多くの民族と宗教、多文化、いくつもの言語の国でもあるインド、その北東部の「多様なインドでもとりわけユニーク」なメガラヤ州、アッサム州、ナガランド州で延江さんたちは活動しています。色彩豊かな民族衣装、固有の踊りや習慣をもつこの地域の人々について語る延江さんの言葉と表情はどこまでも優しく、「多文化共生」社会の実現を願う思いがあふれています。

メガラヤ州の雨の多いガロヒルズに暮らすガロの多くはクリスチャン。ガロ語を話し、サリーは着ないで腰巻をしています。女系家族で女の子は結婚しても両親の近くで暮らし、一番下の娘が親の面倒をみて家を継ぐそうです。男の子は結婚するとお嫁さんの村へ移って暮らします。ガロの人々は優しく、おっとりしています。延江さんたちは週に一度は診療所に来られない人のために村を巡って往診します。ここには決まった食事時間がなく、お腹がすけば食べる習慣で、バナナの葉が皿代わり。四手網で小魚を採って発酵させ、これがガロの食生活には欠かせない食材となります。この人たちは正月に集落の人たちがみんなで集まり共に食べ、歌いながら家に帰ります。

メガラヤ州に住むカシの子供たち

同じメガラヤ州のカシヒルズに住むカシの人々は、エキゾチックで女系家族です。クリスチャンが多く、カシ語を話します。ガロヒルズと違ってここは寒く、秋にはヒマラヤ桜が咲きます。カシの人々は井戸から水を運ぶのも薪運びも共同で行います。ビンロウの実は売ればお金になりますが、自分たちも口にするので、いつも口のまわりが真っ赤です。ここでも豚の血でできたソーセージや豚の腸を使ったサラダを食べます。父親たちや成人した息子たちはあちこちへ出稼ぎに行きます。

「知られざるインド北東部への旅」 第2回

この日の延江さんの話の中心は、アッサム州とナガランド州での活動に移りました。北東部8州のうち最大のアッサム州は、中央にプラマプトラ川が流れ平野が広がります。上流の中国から流れてくる川は、中国に大きなダムが造られてから水量が減ってしまい、生態系が壊れました。農業への影響が懸念されます。

カルビ・アングロンク の田園風景

他の北東部に住む民族同様、アディバシやカルビの人々の主食もコメです。アディバシの女性はかつて手足に入れ墨をしました。首の周りの入れ墨はまるでアクセサリーのようです。アディバシにはカトリックが少なくありません。彼らの典型的な民族舞踊は、インドの古典舞踊とは違い、日本の盆踊りのように延々と続きます。インドではクリスマスに「メリークリスマス」とは言わず「ハッピークリスマス」と挨拶を交わします。

サンタリの挨拶は仕草がとても優しく、男性同士も独特な形で手を握りあって何度も挨拶します。女性は腰をかがめて丁寧に相手に敬意を表し合い、いかにも穏やかな文化を持つ人々であることをうかがわせます。

サンタリの挨拶:男性同士

とりわけ多民族からなるアッサムは政情が不安定になりがちなところで、ボドとサンタリの民族紛争がありました。バンド(ストライキ)が始まると長く続きます。インドのモディ現政権はヒンズー至上主義への傾きがあります。国民登録法や国籍法改正案など、延江さんたちが願う「多文化共生社会」の行方への影響が気になる様子です。

ナガランド州、マニプール州、アルナチャル・プラデシュ州、そしてミャンマーの山岳地帯にはナガ民族と呼ばれる様々なエスニック・グループから成る人々が住んでいます。人種としてはモンゴロイドが多く、延江さんも話さなければ「ナガの人」として通るそうです。ナガの人々は、かつてはあらゆる物に霊が宿ると考えるアニミズムを信仰していましたが、今は9割がバプティスト派のクリスチャンで、近代的な教会を建てています。ナガは戦士の民族です。ナガ民族に属するアンガミの浄めの行事の時には村の人々がみなで座って、コメで作るライスビールを飲みながら一日中歌い続けます。

ナガランド州・コヒマにあるカトリック教会

ナガランドの州都コヒマは日本のインパール作戦の激戦地でした。当時の戦闘による現地の人々が受けた多大な被害についてはほとんど語られません。

ナガの人々の食生活には納豆などの発酵食品やライスビールなど興味深く、「石と土以外は何でも食べる」と豪語するほどです。

<Q&A>

延江さんとMMSの志願者たち

問) メディカル・ミッション・シスターズ(MMS)の理念を教えていただけますか。
答) MMSは、私たちはみな人類と言う家族の一員であるという信念のもとに、分断されたいまの世界に「癒しと一致」をもたらそうという、グローバルなミッションを担う多文化共同体として一つになろうと志しています。
北東部のMMS共同体で生活する中で強く感じることは、文化的背景の違いや異なる考え方、気質など様々な壁を乗り越えようと意識しながら、ささやかであっても日々努力を重ねることが大事だ、ということです。ここにはAFSの理念とも深く響き合うものがあると感じられます。

問) MMSの医療活動の具体例を教えてください。
答) ダウン症の子供に鍼治療をほどこしたことがあります。ダウン症自体は直せなかったけれど、1回の治療で子供の表情が劇的に変わり、学習障害と言葉がうまく話せないという障害については、鍼治療を続けた結果、生活の質を上げることができました。
またマラリアを病んで歩けなくなった子供の治療を頼まれ、鍼に微量の電流を通す鍼治療を2~3か月続けたところ歩けるようになり、学校にも行けるようになったと喜ばれました。

野村彰男(8期生)


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