「AFS友の会ネットワーキングの集い」では10月15日、ZOOMオンラインで「ラウラさんとフィンランドを知ろう」シリーズ第2回目「女性首相と実体験からのワークライフバランス」が開催されました。講師は元AFS留学生(フィンランド→日本)でフィンランド大使館商務部商務健のLaura Kopilow(ラウラ・コピロウ)さんです。

当日、ドイツから参加されたレナー順子さん(15期生)がレポートしてくださいました。

講演の動画はページ下からご覧いただけます。


私は40年以上、南ドイツバイエルン州のトウッツィング (Tutzing) と言うミュンヘンから南西約40 kmの町に住んでおります。ヨーロッパ内とは言っても、南ヨーロッパの方が距離的にも近く、休暇にはもっぱら南方に出かけていたため、ヘルシンキを初めて訪れたのは2016年でした。その際、市の中心部を観光するだけで、残念ながらほんの一部しかフィンランドに触れられませんでした。小さな国で平穏だからかもしれませんが、ドイツでは、あまりフィンランドのニュースを耳にすることもありません。実は首相が若い女性だという事実を今回初めて知りました。ドイツでもメルケル首相が女性なので、今回のテーマに特に興味を持ち、参加させていただきました。日本とフィンランドだけではなく、ドイツとも比較しながら、興味深く拝見・拝聴いたしました。

ラウラさんは、フィンランドで生まれ育ち、AFS生として函館で一年高校生活を送り、早稲田大学、北大でも勉強され、2018年から現在までフィンランド大使館商務部に勤務されています。日本歴通算9年半、双方の文化に通じた豊かな経験を背景に、前半は 「女性首相と平等について」、後半は 「フィンランドの働き方」に重点が置かれ、講演が行われました。ヘルシンキ大学在学中日本人専用旅行社での勤務経験もおありです。

2019年12月に選出されたマリン首相は史上最年少、34歳の女性で、2015年から議員を務め、運輸通信大臣も務めたそうです。フィンランドでは1906年、世界で最初に参政権が女性に与えられて以来、女性首相はすでに3人目だそうですが、国会での女性の比率が1907 年には9.7 % だったのに対して、約100年後の2010 年には、47 % (94人), 現在は46 % (92人 ) だそうです。女性が初めて大臣を務めたのは1926年ですが、現在では大臣の 60 % (13人)を女性 が占めています。

マリン首相と閣僚(2019年12月時点) ©Finnish Government

マリン首相が若い女性であるという事実は、自国では関心の的ではなく、かえって外国で騒がれている事実がフィンランドで話題になったそうです。フィンランドでは、仕事とプライベートは分離し、私生活はメデイアでもあまり取り上げられず、首相がレインボーカップル (二人の母親 ) に育てられた事実を、ラウラさんは知らなかったそうです。実際フィンランドでは、仕事の適性は、性別年齢に関係ないそうです。マリン首相は、コロナウイルスに適切に対処し、国民の間でも人気が高いようです。彼女の属する政党の社会民主党は、彼女のおかげで以前よりずっと国民の支持が増えたそうです。2歳ぐらいの娘さんが一人いますが、結婚は出産後の2020年でした。日本では、順序が逆と考えがちですが、そういう所も、フィンランドでの枠に囚われない生活意識かもしれません。結婚を公表したのは、一般メデイアではなく、本人がインスタグラム上に何気なく載せたそうです。

フィンランドでは、専業主婦という概念は無いも同然で、通例共働きです。経済的理由からそうせざるを得ないということもありますが、第二次世界大戦中の女性の活躍が目覚しかったということも要因の一つらしいです。家事は分担していますが、(統計を見ると )傍目で見るほど平等に分割はされていないようで、女性の負担の方が大きく、ラウラさんもこの事実には驚いたようです。フィンランドでは、料理は女性の仕事とか庭仕事は男性という既成概念は存在しないようで、お母さんが庭仕事をして、お父さんがパンを焼いたりする光景もよく見られるそうです。

お婿さん手作りのお菓子が並ぶ結婚パーティ ©Laura Kopilow

テーブルがしなるほど何種類もの美味しそうなケーキの写真の説明では、妹さんの結婚式の物で、その内の一種類はお婿さん手作りと聞いて、これも驚きました。共働きで困る点は、夏休み中の子供の世話だそうです。父親と母親が交代で休暇を取り、それでも手が回らない場合は、祖父母が引き受け、時には友達の家同士で子供を預かるなどの工夫をしているようです。

日本ではイクメン、協力的な旦那、女子力、女性が輝く社会等と言う言い回しがありますが、これは日本特有の考え方のようです。それから名前ではなく「奥さん」「ご主人」「お母さん」 と呼びかけることが多いですが、フィンランドではそういう呼び方をすると、そのことだけに没頭していると理解されているのかと、かえって失礼に聞こえかねないので、ほとんど名前で呼びかけます。会社内でも、苗字ではなく、名前で呼びかけるそうです。日本では意識せず習慣で言葉を使っているようですが、もう少し使う言葉を意識すれば、世の中が変わるのではないでしょうかというアドヴァイスもいただきました。

パン作りをするお父さん ©Laura Kopilow

フィンランドは過去3年連続して、世界幸福度ランキング1位です。福祉が充実していて、安心して暮らせるからかもしれませんが、天気が良い、ご飯が美味しい、周囲に家族や友達がいるというシンプルな事実に満足しているからかも知れません。過度に期待せず、頑張りすぎないのも幸福度感知の要因かも知れません。又、人口が少ないので人、一人一人が大事にされ、一定の基準に当てはめず、多様性に重点が置かれて、生活し易いと感じているせいかも知れません。最近よく話題に上る性的マイノリティーの人が権利を主張することは、フィンランドでは、皆のためになると考えられ、引き算ではなく、むしろ足し算、掛け算だと捉えられているというご説明がありました。自己性が尊重され、歩み方次第で何にでもなれるという特典はありますが、若い人がはっきり自分の進行方向を探すのは、チャレンジだそうです。しかしチャンスは一回だけではなく、もし方向転換をする場合には、国からの経済的援助があり、新しい道を進む可能性もあるそうです。ラウラさんも迷ったそうですが、AFS で日本に来たことがきっかけになり、今の仕事をする結果になり、満足しているそうです。

庭仕事に勤しむお母さん ©Laura Kopilow

働き方に関しては、フィンランドではコロナ以前から、約30 % リモートで、一般に早朝から仕事を始めるため、朝8時から仕事を始めれば、8時間後の午後4時には、終了になります。通例残業はなく、仕事のプロセスより、成果で評価されるそうです。リモートワークが問題なく成り立つ鍵かも知れません。かえって残業をしない方が、高く評価されるようです。たまたま必要が生じて残業すると、代休を取るのが当たり前だそうです。会社内でも上下関係を意識する必要がなく、上司もファーストネームで呼ぶ環境なので、提案をすることも躊躇せず、仕事はやり甲斐があると思っているそうです。
一般に国全体において、相互信頼度が高いと言えます。その理由としてラウラさん曰く、自然環境が厳しく、人口が少ないため、お互いが助け合い、同胞感を持たないと生存できないからかもしれません。リモートワークが問題なく稼働しているのもそれが基盤ですし、比較的高い税金を素直に払っているのも、税金は結局自分に返還されると、政府を信じていることに他なりません。消費税だけを見てもフィンランドでは24 % だそうです。
魅力的なフィンランド人は、仕事面でもプライベート面でも充実している人だというご説明がありましたが、まさにラウラさんはそれを地で行くような明るくポジテイブな方という印象を受けました。テレビ出演や雑誌にも取り上げられています。フィンランドの知識をさらに深めたい方のために、以下が参照リンクです。
フィンランド大使館Twitter: @FinEmbTokyo

最後になりますが、ご自分のご家族の生活に密着した写真提示も交え、フィンランドを分かりやすく丁寧に説明して下さった講演者のラウラさん、こういう機会を作ってくださったAFS 友の会の皆様に心からお礼申し上げます。
レポートでは、講演内容のほんの一部しか再現できませんので、是非実際にご自分で参加なさる事をお勧めいたします。講演中チャットルームに質問を寄せることも可能ですし、感想を書き込むこともできますので、対面講演会とは一味違った楽しみ方があります。

文責: レナー順子 (15期、旧姓:萩原)

 

▼講演動画


Laura Kopilow(ラウラ・コピロウ)さんのプロフィール:

 

2006年、函館で高校生活を体験したフィンランドからのAFS留学生。
帰国後、ヘルシンキ大学在学中に早稲田大学に留学。ヘルシンキ大学を卒業後、再び来日し、国費留学生がとして北海道大学大学院法学研究科に入学し、修了。現職に至ります。
日本テレビ「世界一受けたい授業」などのテレビ出演やその他メディアのインタビュー、講演などでも活躍中。

 


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