10月27日(土)は東京オペラシティで第14回AFS友の会チャリティーコンサートが開催されました。
ストラディバリウス、誰もがその名を知るヴァイオリンの名器ですが、幾たりの人がその音色を聴いたことがあるのでしょう。
柔らかな空気に包まれた近江楽堂で奏でられた数々の楽曲は、それはそれは素晴らしいものでした。高くて丸い天井の礼拝堂のようなホールの中をゆき渡る音色を、マイクを通さずに直接聴けたことも良かったです。
やさしく頬にふれるような1本の細い音が、時に太く、時に幾重にもわかれて私たちを別世界へといざなってゆきます。神へ捧げる人生と深い内なるバッハの世界、力強く愛と喜びに溢れるリストの世界、音から月の光がすぅーっと降りてくる儚げもやさしいドビュッシーの世界。
ヴァイオリニストの高雄敦子さんが時に笑みを浮かべ時に眉根を寄せながらストラディバリウスを弾く姿に誘われて、私たちも音楽に全身を委ねながら至福のときを過ごしました。

高雄さんのご家族はイギリスの音楽院から尺八の勉強にきていた留学生のホストファミリーをされていたそうです。
高雄さんが高校2年生の時に彼女にイギリスへ連れて行ってもらったことがきっかけで、イギリス王立音楽アカデミーへの留学を決意されました。ホームシックになった時に励ましてくれたというドボルザークの楽曲は明るく軽やかな音色が次の瞬間にパッと何重にも分かれて、聴く耳を驚かせてくれました。
大学の寮はリージェンツ・パークに隣接し、朝は馬がパカパカいう音で目が覚めることや、大きな寮にキッチンはたった1つで、あらゆる国籍の留学生たちがそこに集まり食を通して文化を知ったことなどの数々の思い出から、プログラムにはないエドワード・エルガー「朝の歌」という楽曲を聴いたときは次第に明るくなってゆくロンドンの夜明けが目に浮かんできました。

ロンドンの路上で見かけたバスキング、道端での大道芸をやってみたくて、高雄さんは友達と2人でヴァイオリンを片手にハムステッド・マーケットで路上パフォーマンスをやったそうです。すると20ポンド札を入れてくれる人がいたほどの盛況で、そのエピソードからモンティの「チャルダッシュ」は右に左にとオーディエンスを巻き込んでの演奏となり、弾き終わりと同時に大きな拍手と「ブラボー!」の喝采が出るほど。
そこから一転、武満徹「妖精の距離」はピーンと張りつめた薪能のような厳かさ。日本人の精神の大切な部分に触れるひと時となりました。
そして高雄さんがご自身のテーマソングであると言うホルスト「ジュピター」。宇宙の神秘を感じ自然と宇宙との一体感とともに、癒し、喜び、内から湧き上がるパワーに全身を包まれ酔いしれました。
アンコールで演奏された「荒城の月」は今まで聴いたことがないものでした。いきなり力強く、次に迷い、深い模索をいくつもの音が織りなし、一転して一条の月光、青い月が苦悩を見つめる。すぅっと音が消えたあとは一瞬の静寂、そして割れんばかりの拍手。本当にどんな言葉も表し尽くせないほど素晴らしかったです。

ストラディバリウスが名器なのは間違いないですが、それは楽器に命をふきこむ奏者がいてこそ。高雄敦子さんという唯一無二のヴァイオリニストを得て、ストラディバリウスとともに私たちも時空を超えた至福の旅をすることができました。この時を与えてくださったことを感謝せずにはおられません。今日もまた余韻を求めてCDを聴いています。

濱崎洋子


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