2015年5月27日(水)の夜、写真家の市川恵美さんを講師にお迎えし、虎ノ門のAFS日本協会事務所会議室でネットワーキングの集いが行われました。
当日は参加者38名が軽食と飲み物を囲んで懇談した後、1時間半ほど市川さんに御講義いただき、質疑応答も行われました。
写真の背景と現状
市川恵美さんは、高校時代に12期のAFS留学生としてノースカロライナに1年間留学されました。その際、日本の高校新聞に写真と文章を投稿した経験から、写真にのめり込まれたそうです。留学により得た経験を日本のご家族やご友人に伝えること、それが写真のスタートでした。
アメリカの高校では授業の一環として校内新聞を作られており、当時の写真はどれもその頃のアメリカの様子・雰囲気を伝えるもので非常に興味深かったです。
市川さんの写真のスタイルは、人間が持つ好奇心に基づいて、誰かに言われるのでなく自分の関心で良いと思ったら写真を撮るというものだそうで、現在もご自身のHPで毎日写真を更新されています。
EMI ICHIKAWA 今日のいちまい
ご自身のテーマは「水」、これまでずっと撮り続けておられます。
風や太陽の光、鳥やボートの波紋が絡まって美しい水面を作るので、その一瞬を捉える、という視点で撮影されているそうです。そして、その絶妙なタイミングによって、身近な普通のものが美しい作品になるそうです。
遠くまで行かなくても身近なところで面白いものを見つけることができる、とのことで、市川さんの写真の多くは近所の湖、駅のホームや駐車場など、身近なものを対象にしています。
水
個展「うらうへ」(第17回酒田市土門拳文化賞受賞)の写真を紹介してくださいました。
「うらうへ」は、市川さんが、怖いものも意味深いものも全て水で表現された作品集です。
市川さんが水が好きになった原点、それは故郷の凪が多い瀬戸内海の水面の美しさだそうです。
水には二つの特徴があるように感じました。まず、水は変わりゆくものであるということ。水の写真は静的に見えますが、実際の水の動きは変化し続けるものであり、あっという間に変わってしまうものです。次に水は抽象的なものであるということ。水の姿は見る人によって多様な見方、解釈の余地があり、その写真の魅力を一層増す力があるような気がします。
特にご苦労された写真は、写真集の裏表紙にも使われている雨の交差点の写真です。これは、水に濡れた路面に映る車の赤いブレーキランプを絶妙のタイミングで捉えているもので、撮影のために市川さんは長時間雨の中でカメラを構えていたそうです。
他にも多くの水をテーマにした作品を見ることができました。
生
そして、「日々の木(にちにちのき)」についてもご紹介いただきました。こちらは現在も開催されている個展です。
東日本大震災のあと、普段は離れて暮らす妊娠9ヶ月の娘さんが市川さんがお住まいのご実家に身を寄せていたそうです。お産の前には運動が必要ということでお二人は毎日家の近くにある佐鳴湖を散歩されていました。その散歩の際に、娘さんと一本の木が並んでいる写真を撮った瞬間からこの作品集はスタートしました。
その後3年半に渡り、定点観測のように一本の木を撮影し続けて作られた作品です。その8メートルほどの木の周りに人が集まるようになったそうです。
その細い一本の木は、3年半の間にだんだんと傾いていき最後には想像がつかないような結末を迎える、市川さんと木を巡る不思議な物語が写真により紡がれています。
とても興味深いお話でつい肩に力が入って聞き入ってしまいました。今回参加できなかった方も、機会があれば是非足を運ばれることをお勧めします。
感想
学生時代に通っていた代々木から虎ノ門に移転して初めての事務所訪問でしたが、昔の事務所の雰囲気がしっかりと残っていて、不思議と留学をした高校生の頃を思い出しました。
写真家の方のお話を直接聞くのは今回が初めての経験でした。アメリカの生活を日本に伝えるための手段として写真を始められたことをきっかけに、写真家としての道を進まれた市川さんのお話はとても面白かったです。
想像できないような光景やストーリーを作り出す写真の世界に引き込まれ、そのドラマに満ちたストーリーを聞いた時、アインシュタインの言葉がふと頭に浮かびました。
身近な光景にも美や物語を感じる姿勢を忘れずに持っていたい、と思いました。
“There are only two ways to live your life. One is as though nothing is a miracle. The other is as though everything is a miracle.” ― Albert Einstein
写真提供:写真家・市川恵美さん
※講演中の市川さんご本人の写真は中山久子が撮らせて頂きました。
報告者:川嶋雄作(AFS50期 ‘03-‘04 アルゼンチン派遣)
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